中学1年生、体重30kgに満たない小柄な新体操選手。
低身長・低体重を指摘され、学校からの紹介をきっかけに小児科を受診しました。検査では成長ホルモンの分泌に大きな問題はなく、これから二次性徴を迎える段階。一方で、成長に必要なエネルギーが十分ではないため、食事量を確保するよう医師から説明を受けていました。
「食べればいい」ができない苦しさ
練習量が増えると体重が減ってしまう状況から、複数の医師から新体操をやめることも勧められていました。
でも、大好きな新体操は続けたい。
それなのに、食べられない。
学校の先生が給食の量を見て驚くほどの少食でした。
「食べればいい」と分かっていても、食べられない本人。食べてほしい気持ちが強くなるほど、苛立ってしまうお母さん。
そんな半年を過ごし、藁にもすがる思いで、新体操の指導者を通じて私のところへ相談に来てくれました。

初回カウンセリングで見えた“その子に合う方法”
体育館の片隅で、本人・お母さん・私の3人で1時間の栄養カウンセリングを行いました。
「どんなものが好きかな?」
「たくさん食べられるのは、どんなもの?」
話を聞いていくと、ヨーグルト、果物、アイスが好き。どんぶりものや納豆ごはんは比較的食べやすいことが分かりました。
さらに食べ方を確認していくと、噛むことは上手でも、飲み込むことに時間がかかり、食べ続けるうちに疲れて量が食べられなくなる傾向も見えてきました。
「これは、あまり好きじゃない?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせて、
「何で分かるんですか?」
と驚くことも。そんなやりとりを重ねながら、その子が食べやすいもの、苦手なものを一緒に探していきました。
最後に伝えたのは、
「二人とも、よく頑張りましたね」
という言葉でした。
食事は、ただ頑張って食べるものではありません。おいしく食べながら体をつくり、好きな競技を続けるための力になってほしい。
そこから、この親子とのサポートが始まりました。

少しずつ成功体験を積み重ねたサポート
テーマは「おいしく、食べやすく」
無理に頑張って食べるのではなく、本人が食べやすいものを、今より少しでも食べられたらいい。今の自分から一つでも前に進めたら、それは十分に素晴らしいことです。
「どんな攻略法があるかな?」
そんなふうに、一緒に方法を考えていきました。
食事を残すこともありましたが、最初は少しずつ食べられる量が増えていきました。
アイスだって、お菓子だって、食べられればエネルギーになります。まずは「食べられるもの」を味方につけることから始めました。
ところが、順調に進んでいた矢先に体調を崩し、以前よりさらに食事量が落ちてしまいました。
回復には約1か月。
100gのごはんを見るだけでもげんなりしてしまい、50gをやっと食べられるほどでした。
それでも、
50g → 60g → 70g
と、本当に少しずつですが、ごはんの量を増やしていくことができました。
少ししか入らないお腹でも、できるだけエネルギーや栄養をとれるように、市販の濃厚流動食も試しました。コーンポタージュ味に牛乳を加えたり、アイス感覚で食べられるものを見つけたり。
大切にしたのは、頑張って食べることより、「おいしい」「これなら食べられる」と思えること。
食べる楽しさと、「食べられた」という小さな自信が、次のやる気につながっていきました。
平日は週3回、1回3時間ほど練習する選手だったため、時間を取りやすい休日には午前・午後と2回の補食をプラス。1回にたくさん食べるのではなく、少量を回数に分けることで、エネルギーをとりやすくしていきました。

食べることが“苦しみ”から“未来をつくる力”に変わった
サポートを続ける中で、大きな発見もありました。
それは、自分で作ったものなら、いつもよりたくさん食べられること。
そして、自分が作った料理を家族が喜んで食べてくれることでした。
休日には自分で料理を作り、家族にも振る舞うようになりました。「食べなければいけない」ではなく、食事そのものを楽しむ時間が少しずつ増えていきました。
油も上手に使いながら、エネルギー摂取量が増え始めた頃、再び体調を崩しました。発熱し、アイスやスープ、牛乳くらいしか食べられない時期もありました。
それでも今回は約1週間で食事が戻ってきました。
本人も、少しずつ食べることが自分の身体を支えていることを実感するようになっていきました。
以前はごはん40gを食べるのもやっとだったのに、やがて握り寿司を5つ食べられるまでに。
私たちにとっては、まさに“大出世”です。
ごはんは苦手でも、おかずを残さない日が増えました。一方で、麺類は思ったほど食べられないなど、本人自身も「自分は何が食べやすく、何が苦手なのか」を少しずつ分かるようになっていきました。
ごはんが食べづらい時には、かぼちゃや芋類を取り入れるなど、本人に合う方法を選べるようにもなりました。
そして、クラブ主催の大会では新人賞を受賞。
今も、大好きな新体操を続けています。
朝食には「これが飲めたから大丈夫」と濃厚流動食を取り入れながら、普通サイズのおにぎりを食べる姿も見られるようになりました。
ある日、おにぎりを食べながら、
「3cm伸びたよ」
と笑顔で報告してくれました。

スポーツ栄養士として伝えたいこと
体型や体重への意識が高まりやすい審美系競技では、食べることに不安を感じる選手もいます。
私が目指しているのは、ただ「食べなさい」と伝えることではありません。
自分で考え、自分に合った食べ方を選べる選手を育てること。
いつか親元を離れた時にも、自分で考えて、調理して、食べられる。それは一生使える力になると思っています。
食事は毎日のことです。食べることが苦しいのか、楽しいのか。それだけでも、日々の過ごし方は大きく変わります。
栄養情報は、今や簡単に手に入ります。
でも、同じ競技をしていても、同じ年齢でも、食べられる量や好き嫌い、生活リズムは一人ひとり違います。その人の今の食事からスタートして、たくさんある栄養情報の中から「その人が実際にできる形」に変えていく。
それが、栄養士だからできることだと思っています。私は、その分岐点に一緒に立てることが一番の喜びです。
私のサポートは、一瞬かもしれません。
でも、「自分で考えて食べる力」は、これから先もその子自身を支えていきます。
私は、その土台づくりに関われることが何より嬉しいのです。

保護者からの感想 ※抜粋
低身長・低体重で「これ以上成長できないかもしれない」と言われた時は、不安でいっぱいでした。
「もっと食べれば成長できる」と分かっても、どうしたらいいのか分からず、食べない子どもを怒ってしまい、余計に食べなくなる負の連鎖でした。
初回カウンセリングで、
「お母さんも、○○○ちゃんも頑張りましたね。大丈夫、食べられるようになります」
そう言っていただけたことで、本当に安心しました。
「アイスも体を作るエネルギーになる」
そう理解してからは、食事への考え方が変わり、少しずつ前向きに食べられるようになりました。
写真を送って見てもらうことで、「何が足りないのか」「あとどれくらい必要なのか」が分かり、親子で目標を持てるようになりました。
半年前、悩んでばかりだった頃と比べて、今は子どもとの関わり方も変わりました。
「諦めるのではなく、工夫次第で結果は変わる」
それを教えていただけたことに感謝しています。
保護者を通じて伺った医師からのコメント ※抜粋
スポーツ・女性・栄養・子どもの気持ちまで考えながら、競技者の立場に立って行う栄養指導はとても貴重だと感じました。
「食べられない」ことに悩む競技者は少なくありません。
本人基準の小さな成長を認めながら進めてもらえたことで、自分で考えて食べる力が育ったことが、とても良かったと思います。

沖本 玲子
管理栄養士/公認スポーツ栄養士
2020東京五輪聖火ランナー。日本ナショナル強化選手の食事指導をはじめ、ジュニアからトップアスリートまで幅広くサポート。
競技成績だけでなく、「自分で考えて食べる力」を育てることを大切に、一人ひとりに合わせたスポーツ栄養サポートを行っている。



