食育がしたいのに、調理しかできない
「栄養士なのに、私は給食を作ることしかできていない」
そんな焦りを感じていた時期がありました。管理栄養士として、私には何ができるんだろう。そう思いながら、毎日仕事をしていました。
私は委託給食会社から栄養士の仕事をスタートしました。毎日大量調理に追われ、調理経験は積めても、栄養指導の経験はほとんどありませんでした。
そんな中、自分のこどもが生まれ、離乳食に悩んだことをきっかけに「こどもの食に関わりたい」と思うようになりました。
そこで保育園栄養士へ転職。最初は毎日が本当に充実していました。アレルギー対応、離乳食対応、食育活動。毎日のように食育を行い、こどもたちと直接関われる環境がとても楽しかったんです。
でも、保育園の運営制度が変わり、調理員の削減が繰り返されるようになりました。その一方で、偏食のこどもは増えていく。離乳食対応も、より細かくなっていく。
本当は、もっとこどもの様子を見ながら関わりたい。
「今日は食べられたかな」
「お箸、初めて出したけど使えてるかな」
こどもたちの様子が気になりながらも、現実は調理業務に追われ、食べている様子を見に行けない日々でした。
「食育がしたいのに、調理しかできない」
そんな気持ちが、どんどん強くなっていきました。私は調理師になりたかったのだろうか。自問自答する日もありました。
でも、振り返れば自分にあるのは“現場経験”だけ。
「私は、何を強みにすればいいんだろう」
そんなふうに感じていました。

“食べられた”より、“安心して挑戦できた”ことが嬉しかった
そんな中でも、こどもたちと関わる中で、少しずつ見えてきたものがありました。
保育園勤務時代、うどんしか食べられず、お米の胚芽が気になってごはんを食べられない。だしも市販の麺つゆしか受け付けないという子がいました。
最初は、どう関わればいいのか分かりませんでした。
でも、無理に食べさせるのではなく、ちょっとずつ。安心できる市販のだしのうどんを提供しながら、一緒にクッキングをしたり、食材に触れたり、給食室の前でたわいもない話をしたりしました。
給食室が“苦痛な場所”にならないように心がけていたんです。
そうした「できた」を少しずつ積み重ねていく中で、「先生が言うなら食べてみる」と言って、一口食べてくれた時のことを今でも覚えています。
少し緊張した表情で口に入れて、「あ、おいしい…」と小さくつぶやいたんです。
そして、
「おかわりってある?」
そう言って、満面の笑顔を見せてくれました。
その瞬間、“食べられるようにする”だけではなく、「安心して挑戦できること」が大切なんだと感じました。
これが、今の「できた!がふえる わくわくキッチン」の原点になっています。

“正しい知識”だけでは、こどもは変わらなかった
それでも最初は、「もっと栄養の知識をつけなきゃ」と思っていました。
もちろん、栄養の知識は大切です。でも、実際にこどもたちと関わる中で、“正しい知識を伝えること”だけでは、こどもは変わらないんだと感じるようになりました。
食べられるようになるこどもたちには、
- 安心できる環境
- 「やってみたい」と思える関わり
- 小さな「できた」の積み重ね
がありました。
そして気づいたんです。
私が向き合いたかったのは、「栄養」そのものではなく、“食を通して、こどもの力を支えること”だったんだと。

食を通して、こどもの力を支えたい
その考え方は、自分の子育ての中でも大きな転機になりました。
わが子が学校でうまくいかなくなり、不登校に。このまま同じ環境で中学校へ進むことに不安を感じ、中学受験を考えるようになりました。
塾には楽しそうに通っている。でも家では、机に向かったと思ったら別のことを始めたり、好きなものに意識が向くと、なかなか切り替えができなかったりしました。
「どうしたら集中して取り組めるんだろう」
そう悩む中で、改めて“食”と向き合うようになりました。
食べる内容や食べるタイミングを整えていく中で、少しずつ集中して机に向かえる時間が増えていきました。
もちろん、食事だけですべてが変わるわけではありません。でも、“集中しやすい状態を整えること”は、こどもを支えるひとつの土台になると感じています。

バラバラだった経験が、今の活動につながっている
振り返ると、委託給食会社、老健、保育園。食育、偏食対応、子育て、不登校、中学受験。
バラバラに感じていた現場経験が、今の活動の土台になっています。
現場経験は、点ではなく、あとから専門性になっていく。私は今、そう感じています。
だからこそ、「現場しか経験がない」と悩んでいる栄養士さんに伝えたいんです。
毎日の業務に追われながら、「このままでいいのかな」と感じることがあっても、今、目の前で向き合っている経験は、きっと無駄にはなりません。
すぐに“やりたいこと”が見つからなくても大丈夫。
自分がどんな時に嬉しかったのか。どんな瞬間に心が動いたのか。どんなこどもに、もっと関わりたいと思ったのか。
その小さな積み重ねが、少しずつ“自分の軸”になっていくのだと思います。
だからもし今、「自分には何もない」と感じていたとしても、今まで積み重ねてきた経験の中に、きっと“自分だけの専門性”につながるヒントがあります。
現場経験は、点ではなく、あとから線になっていく。
私は今、そう感じています。


小今井 さき
管理栄養士
保育園勤務を経て、現在は『賢脳キッズを育む食育プランナー』として活動中。
「子どもの学力に不安がある」「食が細い・偏食で心配」――そんな親御様に向けて、少食や偏食でも天才脳がぐんぐん育つ“楽ちんレシピ”や、親子で楽しめる食育体験講座をご提供しています。
お子様のお受験に挑戦するご家庭や、発達発育に不安を抱える親御様を、栄養の専門的な視点からしっかりサポートしています。
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